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ファン活動の楽しさ

カイヨワの分類

 この文書では、ファンが参加&継続する愛好活動の楽しさを、ロジェ=カイヨワが『遊びと人間』などで提唱した遊びの要素を参考に分析してみる。

試合(Agon)」…もてる能力と資源で競う遊び。自力本願で能動的。
賭け(Alea)」…自分以外のものに結果をゆだね、運の強さを競う遊び。他力本願で受動的。
模倣(Mimicry)」…いわばごっこ遊び。架空の人格になって他者になる遊び。らしくなるために考えるので能動的。
眩暈(Ilynx)」…何かにふりまわされる感覚を楽しむ遊び。自分が動かされる感覚を楽しむため受動的。

 カイヨワは、これらの要素が2つづつ組み合わさって遊びが構成されているとした。4要素の2つづつの組み合わせは6種類あるが、カイヨワは、「試合眩暈」及び「賭け模倣」はありえなく、「試合模倣」及び「賭け眩暈」は時と場合に応じるとし、「試合賭け」及び「模倣眩暈」は根元的に結びつくとした。

楽しさの要素

 ルーミックファンの最も根源的な愛好活動とは作品に触れることである。週刊誌に連載されているものを読んだり、TVで放映(再放送などを含む)されているものを視聴するのがこれにあたる。少し能動的になると単行本を読み返したりビデオを再生して作品に触れることになる。いずれも、作品世界に触れて楽しむのが目的であるとしよう。感情移入は「模倣」であるし、与えられるストーリーに身を任せて楽しむのは「眩暈」である。
 このようなベーシックな活動を経てより深く専門的になると、ルーミック作品を直接に楽しむだけでなく、間接的にも楽しむようになる。例えば、キャラクターグッズを使用したり、関連雑誌に目を通したり、友達と作品を語って楽しむようになる。物品や情報を通じて作品を想像し楽しむことや(ここでは集めること自体が目的化していない状態を言っている)、同好の士らと会話して作品を想像し楽しむこと(ここではノリを重視している状態)などだ。妄想やコスプレなどの楽しさも同じように考えることができる。
 ところで、感情移入と呼ばれるものは「模倣」である。読書や視聴においては、ファンの意識が本来の人格と想像する役割との間で分離している。しかし過度な感情移入によって引き起こされる「眩暈」においては意識の完全な消失ではないまでも、混乱とパニックの状態となる。これは、抑えがたい全身的な興奮を生みだす。

 ところで、自らの想像などによって作品世界を頭の中に想定して楽しみこととは別に、作品世界に関する知識をリソースとして同好の士らと会話することなどもファンの愛好活動としてはポピュラーなものである。想像によって流されることを楽しんでいるわけではないので、形式としては「試合模倣」になる。ちなみに、カイヨワは「試合模倣」の形態が教育的な文化形態を作るものだと評価しているが、会話を通じて作品に対する新しい観点を得ることは確かに教育的なこのである。
また、グッズ収集において集めること自体が目的になってくると「試合賭け」の要素が出てくる。この段階では作品を想像する楽しみとはもはや別次元の話になっているのだ(だからと言って悪いことなわけでもないが…)。どれだけ集められたかは「試合」的だし、その入手については「賭け」的である。
 これらの他にもファン活動には様々なものがあるが、いずれも上記の4要素のいずれかを含んでいるようである。

楽しみ方の違い

 例えば、外見やノリを重視する集団と中身や資料を重視する集団とでは当然に楽しみ方も違うわけで、それらが同じ場を共有すると、その価値観の違いゆえのトラブルが発生することもあります。それらの実例にはこと欠きません。
 楽しむためにグッズを入手し使用する「模倣眩暈」なファンと、集めるためにグッズを入手する「試合賭け」なファンとでは、同じ収集活動をおこなっているにも関わらず、話が合わないことが多いだろう。
 同人誌即売会にサークル参加するファンのうち、外見やノリを重視する「模倣眩暈」なファンと、中身や資料を重視する「試合模倣」なファンとの間も同様だろう。前者は後者の堅い論説に興味は持たないだろうし(そもそも比較の対象にすらされないということだ)、後者は前者の軽妙なノリなどには付いて行けないだろう。
 もちろん、これらのギャップは全体のごく一部であることは言うまでもない。

 実際、同じ対象を愛好し同じ愛好活動をし、そして同じ楽しみ方をしているならば、一緒に行動しやすいだろうと思われる。逆に、同じ対象を愛好し同じ愛好活動をしていても、同じ対象を愛好し同じ活動をしていても、異なる楽しみ方をしているならば、一緒に行動することは難しいようだ。


おまけ

 なんかあんまり良い分析にはなっていないような気がする。無理にこじつけた感がなくもない。特に相性問題は、遊びの社会学を用いるよりも、行動科学の交流分析法を用いた方がよい推論が構築できそうだ。
 もう少し掘り下げるならば、複数のMimicry-Ilynxな集団と 複数のAgon-Mimicryな集団を想定してそれらの相互作用について考えて見たいです。