この文書では、昨今のルーミックファンの性別年齢構成比率の変化の現状と、それにともなって同人誌即売会で発生しつつある問題点について考察しています。
かって、ルーミックファンは男性が大多数派でした。1985年頃には「女性は少ないなぁ」、1990年頃には「女性が増えてきたなぁ」、1995年頃前には「女性が過半数を占めたかな?」というのが実感でした。
さて、昨日(1999年10月10日)の「呪泉卿端展示即売会3(呪展3)」では十代男性の姿をほとんど見かけることができませんでした。参加者の6割が十代女性(20歳初頭を含む)で、2割が二十代男性といったところでしょう。デジカメでの記録映像を確認しても間違いはなさそうです。はたして、十代男性のファンはいないのでしょうか?。もちろん、ルーミックファンの活動は同人誌関連に限らないし、『らんま&犬夜叉』メインの即売会であることを考慮する必要はあります。それでも、その参加者構成比率は現在アクティブなファンのおおよその構成比率に相関していると十分に推定できるでしょう。
参加者をカテゴリー別に分けてみましょう。三十路近い男性のほとんどが、『うる星&めぞん』時代からの継続又は近年になって復活したファンであり、それらの流れで『らんま&犬夜叉』を愛好しています。二十歳前後の男女の多くは『らんま』から継続して『犬夜叉』を愛好しており、そして十代前半女性の多くは『犬夜叉』で初めてルーミック作品に触れてファンとなった者のようです。別のルーミック作品からの流れで『犬夜叉』を愛好する者は少なくないにも関わらず(当然に加齢傾向あり)、『犬夜叉』からファンになる男性が少ないのはなぜでしょうか?。
そもそも、流れで『犬夜叉』を愛好している者のうちどれだけが「『うる星』や『らんま』よりも『犬夜叉』の方が好き」と言うのでしょうか?。実際に、そういう男性はほとんど見かけたことがありません。どうも、義理あるいは義務的な要素がいくぶん含まれているようです。もちろん、そういう男性だって『犬夜叉』を嫌いなのではないし、無理して愛好しているわけでもない。ただ、旧作品ほどは好いていないだけでしょう。
現在、『犬夜叉』は週刊少年サンデーにて連載されています。まだアニメ化も音声ドラマ化もされていません。少年サンデーの読者層に若い男性が少ないということは無いですから、若い男性が『犬夜叉』に触れる機会がないわけではありません。つまり、『犬夜叉』は男性に読まれてはいるけど受けてはいない状態にあるようです。これは作品の志向性の差異に起因するのではないか?と、いくつかの仮説を簡単に構築してみます。
「アニメ志向とマンガ志向」。男性も女性も同じようにアニメを観るけれど、女性は男性よりもよく本を読むといわれます。もちろん、これだけが理由とは思えないですが、現存する『らんま』ファンの女の子にはいわゆる原作派が少なくないのも事実です。
「ワールド志向とキャラクター志向」。ワールド志向とは作品の世界観が重視されることです。『うる星』は、キャラクターも十分に個性的かつ強烈なのですが、それ以上にワールド志向の強い作品であったように思います。実際に、キャラクターのファンと同列もしくはそれ以上に作品世界へのファンが多かったですね。いくらかややこしい愛好対象であるせいかワールド愛好は男性に多いです。一方、キャラクター志向は、作品中のキャラクターたちが重視されることです。キャラクターが読者に分かりやすく描写され、愛好の対象としてシンプルです。この愛好は男女共に多く見られますが、ミーハー的な要素が含まれることが多いせいか、女性に多いようです。なお、『うる星&めぞん』よりも『らんま&犬夜叉』の方がキャラクター志向が強い作品です。
「少年マンガと少女マンガ」。詳細は専門書を参照して頂きたいが簡潔に言うと、少女マンガの定義を『犬夜叉』が満たしているので『犬夜叉』が女性に受けるのは当然だというものです。少年雑誌に連載されているとはいえ、サンデーの購読者層には十分に女性の存在も多いのです。
作品の志向性とは別の観点ですが「昨今の十代男性はマンガやアニメから離れてゲームなど領域に移っていった」という仮説も興味深いです。
ここ十年ほどの同人誌即売会は、本来の同人誌売買を目的とする場から、ファン同士の交流を目的とする場へと変容しています。同人誌を作って同人誌即売会にサークル参加するスタイルから、同人誌即売会にサークル参加する為に同人誌を作るスタイルへの変遷が実際に見られます。様々な原因が考えられますが、ワープロやDTPや印刷などの技術革新は同人誌を作ることを容易にし、メディアやインターネットなどの普及はファンの創作或いは表現を同人誌以外でも供給することを可能としました。イベントが催されることがなくなったことや、コスプレの一般化も影響があるように思います。
現存するアクティブなファンは、年長の『ルーミック』ファンの男性と若い『らんま&犬夜叉』ファンの女性との二分化が進んでいます。これにともない、同人誌即売会など物理的空間を共有するファンたちの中に、伝統的なコモンセンスと革新的なコモンセンスとの差異による問題が発生しつつあります。
現存する旧世代ファンの多くはオジサンです。ところが、若い女性を中心とする新世代ファンの一部はそのようなオジサンを敬遠し、あるいは嫌悪してさえいるのです。相対的に深い知識や考察を重視する旧世代ファンとノリや華やかさなどを重視する新世代ファンとの間に会話が成立しにくいこともこの現象に拍車をかけているようです。もし何らかの形(例えばインターネットなど)でコミュニケートが取れていたならば、会話のきっかけも成立しやすいのですが…。
「呪泉卿端展示即売会3」で休憩中に小耳にはさんだ話です。特定のサークルを名指しで「むさいオジサンがいるのは嫌!」という声がありました。彼女らの認識では「ここは(華麗な)『らんま&犬夜叉』ファンの為の場であって(ムサい)『るーみっく』ファンの為の場ではない」ということのようです。主催者らの認識も同様のようですが、主催者が明示しているのは『らんま&犬夜叉』メインということまでです。一方、旧世代の感覚では「風貌は関係無い。『らんま&犬夜叉』も扱っているのだから立派に参加資格はある」ということでしょう。
この例の場合、主催者がドレスコードの規定を明示していない以上、女の子の認識は筋が通っていません。その場は彼女らだけのものではないのです。もちろん嫌悪するのは自由ですから、そのような場から去ることもできます。彼女らの「他にルーミック系の即売会がない」という理由は通じないでしょう。もしそれが通じるならば同様に、オジサンたち側の「他にルーミック系の即売会が無い」という理由も通じさせなければなりません。
この場合のトラブルは、そのコンベンションのコンセプトを明示していなかったところに問題の根があったようです。もし「当即売会は、若い女性の『らんま&犬夜叉』ファンたちの為の交流の場である。そこでは同人誌等の展示即売やコスプレなどが行われる。サークル参加資格は、当該作品を扱う同人誌を用意することだけでなく、参加者の大多数である若い女性を不快にさせない程度の服装も必要とする」等とあらかじめ明示してあれば、あるいは最初から同人誌即売会の形式をとっていなければ、対象外のサークルが誤解して応募し抽選で落とされるなどという茶番も発生しないし、上記の「むさいオジサンがいるのは嫌!」のような悲劇も避けられていたでしょう。オジサンたちもダンディに極めてくるかも知れません(例えば新井のように!?)。
年長の『ルーミック』ファンの男性と若い『らんま&犬夜叉』ファンの女性との二分化が進んでいます。即売会などの場において、後者の一部は前者との共存を拒絶することがあります。
この嫌悪感が新世代ファンの『うる星&めぞん』離れを生み出します。ついには「あたしたちは『らんま&犬夜叉』ファンなんだから、『ルーミック』ファンなんかと一括りにしないで!」と言うに至ります(念の為…実話なり)。私は『うる星』など旧作品は非常に優れたものだと考えており、日本の文化の一部であると捉える立場にありますので、新世代の旧作品離れは大いに危惧するところです。
ベテランはフレッシュマンを育み、フレッシュマンはベテランから学んで欲しいものです。若人には、必ずしも『ルーミック』ファンがむさ苦しいオジサンばかりではないことを理解していただきたく思います。また、むさ苦しいオジサンが愛好しているからと言って『うる星』や『めぞん』が愛好すべき価値が無いわけではないことも理解して頂きたく思います。一方、オジサンたちは、もはや自分たちの伝統的な価値観が通じるとは限らないことを理解すべきでしょう。
余談ですが、『犬夜叉』アニメ化の時期はいつか、『犬夜叉』の次の長期連載ルーミック作品がどのような志向を持つか、などの要因によって問題の構図が激変する可能性もあります。『らんま』や『犬夜叉』などが旧作品と呼ばれる十年後ぐらいには、現在の新世代ファンらもケバいオバサンとして敬遠あるいは嫌悪されてたりして…(笑)。
新井さとし (arai@luminet.jp)ルーミックファンが互いに理解しあうことは重要なことですが、だからと言って必ずしも一緒に行動すべきだというわけでもありません。必要ならば、棲み分けることも重要です。今後のルーミック系の同人誌即売会について考えてみましょう。
歴史的に、ルーミックファンらが集う同人誌即売会タイプのイベントには「コミックマーケット(留美子ブロック)」「けもコン」「コミックぱいれぇつ」「るーみっくショップ」「呪泉郷端展示即売会」などがありました。そして、2000年春には「るみけっと」が予定されていますので、今後は夏冬の「コミケ」と春の「るみけっと」と秋の「呪展」が季節毎に開催されていくことになりそうです。
信頼できる消息筋によれば、やはり「呪展」は新世代向けを旨としているようです。参加者の一部にあるオヤジアレルギーはやはり無視できるものではないようです。一方、「るみけっと」は、単純にルーミック中心の定期即売会が欲しいという理念により、新世代と旧世代とを区別してはいないようです(もっとも新世代の一部が敬遠する可能性には十分に留意せねばならないでしょう)。
構造的に考えるならば、互いに補完する役割を担うことができる筈です。もちろん、実際にどうするかはそれぞれの主催者ら次第ですが…。私は、それぞれが独自のコンセプトを明示して協力しあうことは双方にとって、そしてルーミックファン全体にとって有益なことだと考えています。