愛好者存在論『愛好者達のライフゲーム』

現役ファン数P = 単位時間に発生する新規ファン発生数B ・ ファン継続期間T

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目次

まえがき

歴史的に「どうしたらファンを増やすことができるのか?」の論議は幾度となく繰り返されてきた。それらの議論の多くは「作品の供給量が増えれば新規ファンが生まれるだろう」に集約しがちであった。この文書では、ファン数の増減を表す数値モデルを構築し、さまざまな観点からファンを増やすためにファンができることについて考察してみた。

さて、現役ファン数Pを大雑把に表現すると、単位時間に発生する新規ファン発生数Bファン継続期間Tとの積に相当する。例えば、毎月1000人が発生し平均寿命3ヶ月ならば、現役ファンの定常数は3000人となる。

ファン数P = ファン発生数B ・ ファン寿命T

要するに現役ファン数Pを増大させたいなら、発生数B又は寿命Tを増大させればよいのだ。

さらに、ファンによる社会への影響力Eは、平均活性度Aを併せて表現することができる。

影響力E = 活性度A ・ ファン数P

すなわち、ファンの影響力を高めるには、現役ファン数Pを増大させるだけでなく平均活性度Aを増大させることも有効なのだ。

次に、ルーミック作品の需要D供給Sとを考えよう。特殊要因を無視したマクロレベルで考えれば、需要Dの増減は供給Pの増減に影響を及ぼす。そして、需要Dは影響力Eに比例するのは言うまでもない。

供給S ∝ 需要D ∝ 影響力E

上記の式をすべてまとめると以下のようになる。

供給S ∝ ( 活性度A ・ ファン発生数B ・ ファン寿命T )

実に大雑把なモデルであるが、仕組みは理解して頂けたであろうか?。

第1章 作品供給量S

ルーミック作品の供給量Sは、雑誌連載やアニメ化や再放送やグッズ販売など作品流通量を表す数字である。ミクロレベルでのファン活動による影響(同人誌やWWWサイトなど)は、現状においては無視してもいいだろう。確かにファン活動による供給は多く見えるかもしれないが、その影響範囲はせいぜい数百人であり、しかもそれは既に深く濃く活動している現役ファンに限定されるものだからだ。

1−1 供給S変動の一般要因

高橋留美子作品が供給される為にはそれをなりわいとしている業者の存在が必要である。具体的には、小学館やテレビ局やアニメ製作会社やアニメショップなどなどだ。作品が社会に供給されるには「業者にとって採算があうか否か」が重要である。ここでいう採算には、経済的な意味での需要量Dだけでなく、社会的評価のようなものも含まれる。

当たり前のことだが、需要が無ければ業者はルーミック作品を扱うことは無い。彼らはファンたちの為の慈善団体ではないのだ。

1−2 供給S変動の特殊要因

ルーミック作品は高橋留美子先生による著作物であるので、原著作物たる作品は高橋留美子先生が創作活動をやめればその供給は急激に途絶えてしまう。この要因ばかりは需要量に必ずしも依存しない(しかしながら、人気が無くなれば打ち切りの可能性だってありえるのだ)。

1−3 作品需要量D

ところで、ルーミック作品の場合には。単一の工業製品の場合とは異なり作品供給量が増えれば需要が減るというものでもない。作品供給量Sが増大すれば(つまり、作品が雑誌に連載されたり、アニメが放映されたりすれば)、新規ファンの発生やファン継続期間の増大などを見込むことができ、結果的に需要量が増大する。これらの変動については後述する。

第2章 ファン発生数B

単位時間あたりの新規ファン発生数Bを増大させるには、「非ファンが作品に接する機会」を増大させることが必要である。

2−1 マクロレベル

雑誌連載、単行本の流通、アニメ化、再放送、グッズ販売などなど作品供給量Sの増大は、非ファンが作品に接する機会も増大させる。新規ファンの開拓にも、元ファンの掘り起しにも、共に大きな効果が見込める。作品が連載されていた時期やアニメが放映されていた時期にファン数が大きく増大したのはこの現象である。

個人のファンに出来ることは少ないが、再放送要望の投書などは十分な期待値を持つ。

2−2 ミクロレベル

「ファンを増やすためにファンにできること」としてしばしば論じられてきた。

新規ファンの開拓

未ファンに対して「ファンの論理」は通用しない。世の中にはルーミック作品の他にも面白いものがたくさん存在するのだ。彼らに、我々ファンの主張を伝えるにはどうしたらいいか?

まず、布教する側が「ルーミック作品の特性」を把握していなければならない。作品のどのようなところがどのように面白いのかを把握していれば、どのような属性の人に対して布教するのが有効であるかを予想することが出来るからだ。改宗の見込みのない人に布教しても効果は薄い。

見込みがありそうな未ファンを見つけたら、とりあえず作品に触れさせてみるのが有効だ。押し付けるのではなく、あくまで自然な流れで触れさせるのがいい。布教側が作品を面白く感じている場面を多く見せれば相手も興味を示すことだろう。但し、ルーミックファンとしてダメ人間になっていてはいけない。そのような姿を見せれば、相手はルーミックを避けてしまうかもしれないからだ。

元ファンの掘り起こし

かつてファンだった者を再び返り咲きさせるには、単に作品に触れさせるだけでは効果が薄い。なぜならば、彼らは既に作品に触れたことがあり、その上でファンを辞めた者たちであるからだ。

彼らがなぜファンを辞めたのかの理由を把握すべきであろう。経験的には、他の趣味(必ずしもマンガアニメに限定されない)に移行していった場合、作品供給が少なくなって自然消滅的にファンを辞めた場合、進学や就職などの理由によりファン活動の継続が困難になった場合、ルーミック作品を好きでなくなった場合などのパターンある。

他の趣味に移行していった場合は、ルーミックを理解した上で他の趣味の方を選んだわけだから、布教する側としてはなかなか難しい。彼らが引退した後に供給された作品を紹介していけば、もしかしたら新しいルーミックの面白さを見つけてくれるかも知れない。また、彼らはルーミックを必ずしも嫌いになったわけでもないので、布教側がルーミックを提示すればそれなりに反応してくれるだろう。

作品供給量が少なくなってファンを辞めた者は新たに作品供給が始まれば容易に返り咲くことができるだろう。布教するものにとっては非常に楽なパターンである。「サンデーで新連載されてるよ」とか「今秋からアニメ『犬夜叉』が放映されるよ」と通知するだけでいいのだ。

ファン活動の継続が困難になって辞めた者(かつてかなりアクティブだったファンが多い)に対しては、その状態でも可能なファン活動を紹介することにより返り咲かせることができる。インターネットの普及によりかつてファンだった者が返り咲いているのはこの現象である。

ルーミックを好きでなくなった者に対する布教は難しいし、愛好を強制すべきでもない。

第3章 ファン継続期間T

過去の論議においては、新規ファン発生数Bはしばしば論じられていたものの、ファン継続期間Tについてはあまり論じられてこなかった。面白い例えであるが、店を繁盛させるには新規顧客開拓と常連確保とが重要であり、新規開店ならば顧客開拓を重視すべきだが、ある程度の実績を持つ店は常連確保を重視した方がいい場合もある。

3−1 ファンの寿命の分類

ファンはいつファンであることを辞めるのか?。経験的には後述の3パターンがあるようだ。

継続期間Tの増大という観点では、各パターン内で終了条件を満たさせないようにするという方針と、より長いパターンへ遷移させるという方針とが見えてくる。

短期パターン(瞬間)

その寿命はせいぜい数週間。愛好対象が供給されている間はファンであるが、供給が途絶えて数秒〜数週間でファンであることを辞めるパターンだ。要するに一時的なファンである。世の中の一般的な視聴者はこれに分類される。

作品が経常的に供給され続ける限り、ファンであることを継続する傾向がある。

中期パターン(定常)

その寿命は数ヶ月〜数年。短期パターンが繰り返される中で、自分がその作品のファンであることを認識し、何らかの愛好活動を開始した者たちだ。ただし、愛好活動を自分の人生の一部とするまでは至っていない。人生の転機やより優れた居場所の獲得、あるいは愛好活動継続不能によりファンであることを辞める。ファンと呼ばれる人々のほとんどがここに分類される。

中期パターンのファンが愛好を辞める典型例は、就職や進学で生活環境が変化した場合、恋に恋する少女が熱病から覚めるように辞める場合、他の趣味や学校のクラブ活動に夢中になっていつしか作品を忘れていく場合、所属していた集団が機能停止又は消滅した場合などなどがあげられよう。もちろん無理してまで愛好を続ける必要はない。

ファン活動のための居場所が継続的に存在することが必要である。

長期パターン(恒常)

その寿命は十年以上!。現役のファン達を観察すると、中期パターンのファンに混じってときどき十年以上のベテランが見うけられる、彼らは、ファンでありつづけることに何の無理のない状態が形成されている。人生が安定し、その中にルーミックが含まれているのだ。彼らがファンであることを辞めるには多大な時間がかかるだろう。十年後もファンであり続けるだろうと自他ともに認められる。

ファン活動のための居場所を自力で恒常的に存在させることができる者たちである。

3−2 ファン活動への誘い(瞬間から定常へ)

ファン総数Pを増大させる為には、新規ファンの開拓だけでなくファン寿命Tを延ばすことも有効だ。作品がマスメディアによって供給されている場合には、非常に多くの瞬間的な短期ファン(一般的な読者や視聴者)が存在し、彼らのうちの一部が定常的な中期ファン(いわゆるファン)となる。ルーミックに興味を示した短期ファンは、受動的な作品消費だけでなく、能動的なファン活動を求めるものだ。短期ファンが独力で中期ファンになることは難しいので、ファン活動の機会が中長期ファンらによって提供されることが重要である。

アニメ雑誌の公告欄や同人誌即売会のパンフやコンベンション会場などで、短期ファンは既存のサークルを知ることが出来る。WWWにおいては、掲示板やチャットなどを検索することができるだろう。お茶会、集会、即売会、オフ会などの情報も、専門誌やWWWなどで得ることが出来るだろう。

すなわち、既存メンバーが新参メンバーを受け入れる体制を整えておけば、ファン数の増加に貢献することができるのだ。もし既存メンバーが新参メンバーの居場所(役割)を提供しなければ、新参メンバーはやがて離れていってしまう。ファン集団においてある時期から急に新参メンバーが増えなくなる現象の多くは、(十分な数の既存メンバーが存在するゆえに)受入体制の整備がおそろかになったことが原因である。

3−3 不老不死(定常から恒常へ)

「自分は一生涯ファンであり続ける」と私に向かって言ったものの数年後には姿を見せなくなった者のなんと多いことか。生涯のファンとなることはそう簡単なことではないのだ。自分の人生に作品を組み込むことはなんと重い意味を持っていることか。

さて、長期パターンのファン達の共通項を考えるに、趣味に振りまわされること無く、趣味を人生の一部としてしっかりと管理していることがあげられよう。ベテランをよく観察すれば、本当に趣味で人生を破滅させたなんてことは無い。みんなしっかりと社会の中で生きているのだ。

趣味に溺れることなかれ。愛好していることを周囲にも容認させるぐらい立派な人となれ。

第4章 ファン活性度A

同じファンでもその活動量は大いに異なる。たまにしか作品に触れない者もいるし、毎日のように触れている者もいる。

4−1 ファン係数

ファン活動の種類は多いので一概に活性度Aを論じることはできないが、ファン係数という概念を導入することによりある程度の一般論を構築することができる。ファン係数にはさまざまなものが考えられる。基本的にファン係数の増大は活性度Aを増加させる働きを持つが、あまりにも過剰な増大は「燃え尽き」によりファン継続期間を縮め、「濃すぎる」により他のファンの啓蒙に悪影響を与えることがある。

時間的ファン係数

総余暇時間のうちルーミック関連の占める割合。ルーミックのことを考えている時間なども全て計上する。ファン活動の機会を増やすことは一般にこの係数を増加させるものである。

経済的ファン係数

総趣味支出のうちルーミック関連の占める割合。ルーミックの為にどれだけ費やすかの指標である。ファンと会うための旅費なども含まれる。週刊少年サンデー購入費も『犬夜叉』だけの為に買うならば全額が、もし他のマンガ9編を読む為ならば購入費の10%が計上される。

この係数による活性度変動は需要Dに特に影響を与える。経済的ファン係数を増大させるには、それに見合う作品供給量が必要である。

人脈的ファン係数

全ての友達のうちルーミック関連の占める割合。家族や同僚などのうち友達であるとは言えない者は母集団から除外する。単なる知人も除外する。手紙やメールなどの交信比率などが目安になるだろう。

4−2 ファン同士の交流

ファン係数を増大させるのに有効な方法のひとつが、ファン同士の交流である。ファン同士の交流はファン活動の機会の継続的生成に有効である。

4−3 数値モデルの拡張要素

様々なファン活動のうちには、需要に結びつくものと結びつかないものとがある。

あるファンが持つ需要は、そのファンと交流を持つファンの数が増えれば増えるほど減少するのだ。つまり、あるファンが行う愛好活動の総量のうち、仲間や友人との交流量が増えれば増えるほど、単位活動量あたりの需要量の割合は減少する。一般的なファンの場合には、その需要量減少は反比例ほど激しいものではなく、もっと緩やかなものであるようだ。

ところで、交流量の増大はファン寿命の増大に結びつき、ひいてはファン現存数の増大につながる。そして、需要量はファン現存数に比例すると考えられる。

したがって、ファンの相互交流による需要減少よりも、ファン数増大による需要増大の方が大きいと言えるだろう。

この論議は、他のファン活動の場合にも応用することができる。

あとがき

この文書で述べていることはそれほど複雑なことではない。要するに、ファン数の増減をモデル化し、ファン数を増やすためにファンにできること、特に「一般的な読者や視聴者をファン活動に誘うこと」の重要性を述べている。そのために、受入体制の整備を提唱している。もちろん、すべての既存ファンが受け入れなければならないわけでは無いが、誰かしらが受け入れなければならない。さもなければ、ファン総数Pは次第に減少してしまうだろう。

Satoshi ARAI ( arai@luminet.jp )